理工学部月刊ホームページ(2001年3月)

担当:知能機械システム工学科 機械システム工学講座
(2001/2/16 初版)
(2001/2/27 2版)
(2005/10/26 3版)

物作りのためのコンピュータ支援技術


    目次  
  1. はじめに  
  2. 情報技術とコンピュータ  
  3. CAD(コンピュータ援用設計)  
  4. CAM(コンピュータ援用生産)  
  5. おわりに

1.はじめに
日曜大工で何かちょっとしたもの(例えばイスをかんがえてください)を作る場合にも、スケッチを書いたり、部品(木材)を加工したりとやるべきことがいろいろありますね。よく考えてから作らないと、すぐに壊れてしまったり、座り心地が悪いと物置きに入れられたままということにもなりかねません。また、その手順(段取り)が悪いといざ部品を組み立てようと思ったとき、必要な工具や材料が揃っていないということになります。

もっと大きく複雑な機械や製品を作る場合には、どうでしょう。まず、どの程度の性能の製品が作れるか、作ったものが役に立つか、さらにそれが売れるかどうかを考えなければならないこともあります。このような企画をたてる人、与えられた性能を満足させるような設計をする人、製図をする人、実際に材料を加工して部品を作る人や部品を組み立てる人が必要になりますし、日曜大工と違いそれぞれの人は皆異なることも普通です。これらの多くの人の間での共同作業がうまくいくためには、情報の伝達をスムーズにする必要もあります。

2.情報技術とコンピュータ
ところで、最近は情報技術(IT)のキャッチフレーズの元に、ディジタル情報を高速に伝送するネットワーク(通信網)の整備が国家的な戦略として注目を集めている様です。しかし情報技術を支えるもう一つの柱としてコンピュータの発展があります。御存じのようにコンピュータは文字だけではなく画像や音声等も含む多様でかつ大量の情報を処理できる能力を持っています。

身近なところでも、文章を書くのにコンピュータのワープロソフトを利用するという方が増えたのではないでしょうか。ワープロを利用する理由は人により異なるかも知れませんが、

  1. きれいに印刷できる
  2. 訂正が容易である
  3. 定型文が利用できる
  4. ほかの目的にも使える
などが、挙げられるでしょう。

さて、製図はワープロ(文章を書く)と同じような側面(図形を描く)を持つのでコンピュータの物つくりへの利用としては一番考えやすいかも知れません。コンピュータを利用して製図を行うことをCAD(Computer Aided Design あるいはDrawing)といいます。日本語でコンピュータ援用設計とも呼ばれています。

実際の部品の加工や組み立てにもコンピュータやロボットが利用されています。これをCAM(Computer Aided Manufacturing)、コンピュータ援用生産といいます。さらに必要な機能がみたされるように製品の性能を予測したり、強度や機構を解析したりするためにコンピュータを利用することがCAE(Computer Aided Engineering)、製品の検査の過程にコンピュータ利用することがCAT(Computer Aided Test)と呼ばれています。使い方は異なりますが、製品が売れるかどうか(マーケティング)の調査結果の解析にもコンピュータが使われています。

以下ではCADとCAMについて、少し詳しく解説します。

3.CAD(コンピュータ援用設計)
CADではネジや歯車など1から描くには面倒な部品があらかじめデータベース(定型文?)となっていたり、書き上げた図形の回転、移動、複写、拡大・縮小、鏡映などの操作が自由で、書き上げた図面の解析(CAE)や製作(CAM)の場での再利用も可能です。また、ワープロであげたメリットに加えて、指定した縮尺で正確に図面を描けるということも重要です。多くのCADソフトでは、寸法を半自動的につけることができます。

CADの中で図面を構成するデータをいくつかの層(レイヤー)にわけて管理する機能は、正確かつ柔軟に図面を取り扱えるための機能として有用です。レイヤーには正面図や側面図の他に補助線や寸法線のレイヤーもあります。補助線は製図中は正確な線を描くために必要ですが、印刷の時には描く必要はありません。正確に描くため、図面の中の直線や交点を捜す機能や図面を拡大する機能も便利です。

コンピュータで図形を対話型に扱うシステムの起原は、1950年代後半にMIT(マサチューセッツ工科大学)の学生であったサザーランド(Sutherland)のスケッチパッドに遡ることができます。はじめは機械設計ではなく電気回路の設計に利用されて成功をおさめました。さらにプラントにおける配管、土木における橋、都市における水路、電線、電話線など、その応用分野を広げてきました。

これらは2次元的な設計および製図ですが、コンピュータで三次元の立体を実際の物であるように忠実にコンピュータに蓄えるという発展もあります。1973年にブタペストで開かれた国際会議では、三次元の立体のデータ構造(ソリッドモデル)として境界表現とCSG(Constructive Solid Geometry)モデルが提案されました。

境界表現は針金細工(ワイヤーフレーム)でおおまかな形状を表した上に、それらが構成する面の形状や実体の向きを付与したものです。

CSGでは直方体や円柱など比較的単純な形状の立体(プリミティブ)を組み合わせて複雑な立体を作り上げます。プリミティブは大きさや角度などを自由にかえられるように定義します。また組み合わせる操作としては、形状の和や差などの論理演算が利用されます。ソリッドモデルを用いることで、二つの面の交線や断面図を求めたり、陰影のある立体を描画することもできるようになりました。後者はコンピュータグラフィクス(CG)の発展の恩恵を大きく受けています。

4.CAM(コンピュータ援用生産)
物作りへのコンピュータへの利用としては、CADよりもCAM(コンピュータ援用製作)の方が歴史は古いかもしれません。1952年にMITにおいて開発されたNC工作機械の制御に利用するテープ(プログラム)をコンピュータで作成しようとするプロジェクトまでに溯ることができるとされています。CAMでは、工作機械の位置決めを正確にできるだけではなく、作りたい部品の形状から工具の動く経路を自動的に計算させることも可能です。また複数の工具を交換して使うことのできるマシニングセンタが開発されたことにより、適切なプログラムを与えさえすれば複雑な形状の部品を自動的に作成することが可能となりました。

プログラムには部品の加工にどのような加工法をどの順序に適用し、そのためどのような工具を用いるかが書かれます。これは工程設計とよばれ、経験が物をいう世界で熟練した経験者しかできないとされてきました。例えば金属板に穴をあけるという簡単な作業でも、はじめにセンタポンチで凹みをつけないと、ドリルの位置が安定しません。また使う材料によっては、一度に大きな穴をあけることはできず、小さい穴からしだいに穴を大きくするという手順が必要です。

今日では加工のためのノウハウがデータベースに蓄えられ、物によってはコンピュータと対話することによって、経験の少ない作業者にも工程設計ができるようになってきました。また、工程をコンピュータに指示することにより、NC工作機械やマシニングセンタを稼動させるプログラムを容易に作成できるシステムも開発されています。

部品の加工がすむと組み立てに入ります。この作業も最近は(産業用)ロボットに行わせることが多くなりました。ロボットが初めて産業に導入されたのは1960年の後半のことですが、当時はスポット溶接や塗装という簡単な作業に用いられていました。しかし組立て用のロボットの動きはより複雑で、限られた制御変数で障害物を避けて自由にアームが動けるようにしなければなりません。そのためには変換マトリクスを用いた運動機構の解析に基づいたロボットのプログラミングが必要です。このプログラムは複雑ですが、ロボット言語の開発などにより作業が容易になってきています。

5.おわりに
物作りとコンピュータの関わりについて、製図(CAD)と製作(CAM)に焦点を絞って解説しました。企画や基本設計においてコンピュータの利用が進んでいるだけでなく、それらを有機的に結合した総合技術が現在発展してきています。総合化のカギはいかに対象を実体に即してモデル化しコンピュータに取り組むかというソリッドモデルにあるという指摘もありますが、企画や工程設計などまだまだコンピュータが人間にとってかわれない部分も多いように思われます。機会をみつけて、CAEとCAD/CAMの統合化について検討してみたいと考えています。

なお、手順をふんだ作業ということは、物作りの基本であるだけでなく、生活すべてに共通する技術です。鬼平犯科帳の作者である池波正太郎は、戦時中の軍需工場で設計図から部品の加工の段取りを読み取り、作業をスムーズにすすめることができるようになったことが、後に小説を書く場合に非常に役にたったと述懐しています。


参考文献
1.安田仁彦:CAD/CAM/CAE入門−改訂2版−、オーム社、1999
2.池波正太郎:日曜日の万年筆(私の仕事)、新潮文庫、1984

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